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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)5548号 判決 1977年10月28日

原告(反訴被告)

中谷株式会社

ほか二名

被告(反訴原告)

季登

主文

一  原告ら(反訴被告ら)は被告(反訴原告)に対し、別紙記載の交通事故につき、各自金三一万一、〇二四円およびこれに対する昭和五一年五月一一日から完済まで年五分の割合による金員を超える損害賠償債務を負担しないことを確認する。

二  原告ら(反訴被告ら)のその余の本訴請求を棄却する。

三  原告ら(反訴被告ら)は各自、被告(反訴原告)に対し金三一万一、〇二四円およびこれに対する昭和五一年五月一一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告(反訴原告)のその余の反訴請求を棄却する。

五  訴訟費用は本訴、反訴を通じてこれを四分し、その一を原告ら(反訴被告ら)の、その余を被告(反訴原告)の各負担とする。

六  この判決の第三項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

(本訴)

一  原告ら(反訴被告ら、以下単に原告らという。)

「(一) 原告らは被告(反訴原告、以下被告という。)に対し、別紙記載の交通事故につき損害賠償債務を負担しないことを確認する。(二) 訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決。

二  被告

「(一) 原告らの請求を棄却する。(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。」旨の判決。

(反訴)

三 被告

「(一) 原告らは被告に対し、各自金一三〇万四、九九〇円およびこれに対する昭和五一年五月一一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え、(二) 反訴費用は原告らの負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宣言。

四 原告ら

「(一) 被告の反訴請求を棄却する、(二) 反訴費用は被告の負担とする。」旨の判決。

第二当事者の主張

(本訴について)

一  原告らの請求原因

(一) 事故の発生

昭和五〇年四月四日午前一〇時ころ大阪市南区難波新地六番町一二番地先道路上において北から南に向かつて進行中の被告運転の普通乗用自動車(泉五五や二〇三〇号、以下被告車という。)が交差点直前で対面信号が黄色に変つたので停車したので、それに追従していた訴外寺尾満運転の普通貨物自動車(大阪四四さ二七八〇号、以下原告車という。)も急停車の措置を採つたが及ばず、被告車の後部に原告車の前部が追突した。

(二) 原告らの責任

1 原告中谷株式会社(以下、原告会社という。)は原告車を本件事故当時自己のため運行の用に供していた者であり、かつ、寺尾は同会社の従業員でその業務を執行中、前方注視が十分でなく、かつ車間距離を十分保持しなかつた過失により右事故を惹起したものである。

2 原告神田および同大野は被告に対し、原告会社の被告に対する右事故に基づく損害賠償債務を併存的に債務引受した。

(三) 損害

受傷および被告車の損害 頸部捻挫、後部破損

(四) 損害の填補

原告らは被告に対し次の名目で各金員を支払つた。

1 治療費 一三八万八、八一〇円

2 入院雑費および通院交通費(タクシー代) 二一万一、〇四〇円

3 付添看護費等 五〇万四、二三〇円

4 休業補償費 二一六万円

5 被告車の修理費用 二二万五、〇〇〇円

合計 四四八万九、〇八〇円

(五) しかし、前項の3の付添看護費については、被告の病状からみて、入院中付添看護の必要はなかつたものであり、4の休業補償費については日額一万二、〇〇〇円の割合で計算して支払つたものではあるが、被告はその所得証明を入手して原告らに提出することができず、かつ、現実にも右事故前それ程の収入はなかつたものであるから被告の本件事故に基づく損害は全部填補されているのにもかかわらず、被告は原告らに対しなお残債権が存在すると主張してこれを請求するので、原告らは被告に対し右事故に基づく損害賠償債務は存在しないことの確認を求める。

二  被告の答弁

請求原因(一)ないし(四)は認めるが、(五)は争う。

三  被告の抗弁

(一) 被告の治療経過は次のとおりである。

入院

昭和五〇年五月二〇日から同年一〇月三日まで東永外科内科病院に

通院

同年四月四日から同月一五日まで十三病院に(うち治療実日数五日)

同年五月一二日から同月一九日および同年一〇月四日から同年一二月二五日まで東永外科内科病院に(うち治療実日数三八日)

なお、その後も通院治療中である。

(二) そのため被告は原告らが請求原因(四)で主張する損害を現実に被つているほかに次の損害を被つている。

1 治療費 一五万四、九九〇円

2 慰藉料 一〇〇万円

3 弁護士費用 一五万円

(三) なお、原告会社と被告の代理人である妻訴外具順玉との間で、昭和五〇年五月二三日次のとおりの示談契約が成立し、原告神田および同大野は原告会社の被告に対する債務につき併存的債務引受ないし連帯保証した。

1 被告車については全面塗装のうえ完全に修理する。

2 休業補償については昭和五〇年四月四日以降一日につき一二、〇〇〇円を毎月末に支払う。

3 被告の治療費は完治するまで全額原告会社が支払う。

4 治療中の看護人に対しては月五〇、〇〇〇円を同年四月四日以降支払う。

5 治療上必要な経費については同日以降の分を毎月末までに支払う。

6 慰藉料については示談の段階で取り決める。

7 原告会社は交通事故任意保険に加入しているので、保険請求に必要な書類の作成については被告は協力する。

(四) そして、被告は右事故当時肩書住所地で繊維製品(主として寝具)の卸小売業を営業するかたわら夕刻から妻が経営する喫茶店のバーテンをし、日額一万二、〇〇〇円を超える収入があり、前記の入、通院のために少くともその期間中は休業し、原告らが主張する金額を超える損害を現実に被り、また、付添看護は妻や、その妹が入院中付添つたので、被告の前記の損害額の主張は相当である。

四  右抗弁に対する原告らの答弁

抗弁(一)のうち被告が昭和五〇年一〇日一〇日以後東永外科内科病院に通院していることは不知であるが、その余は認める。同(二)は否認同(三)のうち、原告神田および同大野が併存的債務引受ないし連帯保証したとの主張は否認するが、その余は認める。同(四)は否認

五  原告らの再抗弁

(一) 原告ら(原告神田および同大野は仮定的に)は被告が抗弁(三)の7に主張する条項を前提条件にして被告の妻と示談したのであり、被告は原告らの再三の催告にもかかわらず、保険請求に必要な休業(所得)証明、付添看護証明を入手、提出しないので、同の2および4の条項はその前提を欠くため賠償額算定の基礎とすることができない無効なものであり、その余の条項も相当因果関係がある損害の範囲内に限つて効力を有するに過ぎない。

(二) 仮に右主張が理由がないとしても、原告らは被告に対し、昭和五二年九月三〇日の本件第一三回口頭弁論期日において被告の前記債務不履行を理由に右示談契約を解除する。

六  右再抗弁に対する被告の答弁

(一) 原告らの再抗弁(一)、(二)は争う。

(二) 被告の休業補償費の基準日額一万二、〇〇〇円は被告はそれを超える収入を得ていたが、その職業の内容等からその裏付け資料を確保できないので、已むなく、同額に下げたものであり、また付添看護費用は、医師のその必要の認定の如何にかかわらず、被告が治療に専念できるよう原告らがその必要を認めて支払を約束したものであるからいずれも証明書等の提出は示談の前提とはなつていないので原告らの主張は理由がない。

(反訴について)

七 被告の請求原因

前記二の被告の答弁、三の抗弁、六の再抗弁に対する被告の答弁の各主張を援用し、被告は原告らに対し、未払の1 治療費一五万四、九九〇円、2 慰藉料一〇〇万円、3 弁護士費用一五万円、合計一三〇万四、九九〇円およびこれに対する反訴状を原告ら代理人に交付した翌日である昭和五一年五月一一日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

八 原告らの答弁

前記一の原告らの請求原因(ただし、(二)の2は除く)、四の被告の抗弁に対する原告らの答弁、五の再抗弁の各主張を援用する。

第三証拠関係〔略〕

理由

(本訴について)

一  請求原因(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで被告の抗弁について検討する。

(一)  同(一)については被告が昭和五〇年一〇月一〇日以後東永外科内科病院に通院していることを除き、その余の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いがない乙第三ないし第五号証によれば、被告は同日以後同年一二月二五日まで同病院に通院し、同病院での治療実日数は入院前のものも合計して三八日になることが認められるが、同年一二月二六日から同病院に通院してことを認めるに足りる証拠はない。

(二)  次に、抗弁(二)ないし(四)につき、原告らの再抗弁の主張も対比して判断する。

1 抗弁(三)の示談契約の成立については、原告神田および同大野が被告の代理人具順玉に対し、被告に対する原告会社の損害賠償債務につき併存的債務引受ないし連帯保証したとの点を除きその余の点は当事者間に争いがなく、右の争いがある点は、当初、原告神田および同大野はその請求原因において右債務を併存的に債務引受した旨を先行的に自白し、被告はその答弁においてこれを認めて援用したものであり、なるほど成立に争いがない乙第一号証によれば、右示談書(契約書)に「以上の契約事項について中谷株式会社が支払を履行する。若し何かの都合で中谷株式会社が支払えない場合には神田文弘及び大野正雄が全責任を以つて支払うものとする。」旨の約定があり、原告神田の署名、同大野の署名押印があることが認められ、右はむしろ、後記のように連帯保証ないし保証連帯と認められることからすると、同原告らの右の自白は真実に反すると認められないではないが、弁論の全趣旨によれば原告らは右示談書の文言は熟知して本訴を提起したものと認められるので、錯誤があつたとは認められないので、右自白の撤回は許されない。したがつて原告神田および同大野は原告会社の被告に対する債務を併存的に債務引受したというべきである。

2 損害額についてみてみる。

(1) 治療費

成立に争いがない甲第一一ないし第一六号証、同第四四号証、前掲乙第五号証によれば原告は十三病院、東永外科内科病院での治療に一五四万三、八〇〇円を要したことが認められる。そして、そのうち一三八万八、八一〇円が原告らから被告に支払われていることは当事者間に争いがない。

(2) 入院雑費、通院交通費、付添看護費等原告らが被告に対し、標記の名目で七一万五、二七〇円を支払つたことは当事者間に争いがない。

しかし、被告の入院期間中付添看護が必要であつた旨の証明がない以上、標記の損害のうち本件事故と客観的にみて相当因果関係のある損害は入院一三七日間の一日五〇〇円の割合による入院雑費六万八、五〇〇円および成立に争いがない甲第四二号証によつて認められる入院前の東永外科内科病院への通院往復タクシー代および入院のためのタクシー代七、四八〇円合計七万五、九八〇円である。そして、成立に争いがない甲第一八、二〇、二三、二七、三〇、三三号証によつて原告会社が被告に対し支払つたと認められる昭和五〇年四月四日から同年九月末日までの付添看護費用二九万五、〇〇〇円については抗弁(三)の4の示談条項に基づき支払をしたものと認められるが、右示談書には同の7の条項があわせて記載されていることおよび被告大野正雄本人尋問の結果によれば、4の条項は将来医師の作成した付添看護の必要を証明する書面を被告が原告らに提出することを停止条件として原告らの債務が確定的に発生し、それまでの暫定的な仮払を定めたものであると認められ(成立に争いがない乙第二号証をもつてしても右認定を覆すことができず、ほかにこれを左右するに足る証拠はない。)、被告が右の証明書を原告らに提出したとの証拠はないので、結局右費用は前記のとおり相当な損害とはいえないので、右金員は同費目としては債務のない弁済となつている。しかし、前記七一万五、二七〇円から二九万五、〇〇〇円を控除した四二万〇、二七〇円のうち、前記の相当損害額七万五、九八〇円を控除した三四万四、二九〇円については、それも一応標記の費目としては非債弁済とはいえるが、前掲甲四二号証、成立に争いがない同二一、二四、二五、二八、三一、三四号証および弁論の全趣旨によれば、原告会社は被告から逐一その費用の明細を明示した請求を受けて検討したうえ、抗弁(三)の5の示談条項に基づき治療上必要があるものと、原告会社としては認めて支払つたことが認められ、かつ、それらの費用も相当な損害とはいえないまでも、社会経験則上、被告がその填補を受けることが明らかに不当であるとはいえないので、法律上は、原告会社から被告に対し、履行された贈与があつたものと認めるのが相当であるから、右金員は他の損害費目への流用充当ないし返還請求は許されないものである。

(3) 休業補償費

原告らが被告に対し休業補償費の名目で二一六万円を支払つていることは当事者間に争いがなく、前掲被告大野本人尋問の結果によれば右は抗弁(三)の2の示談条項に基づき支払つたことが認められるが、右供述および示談書には同の7の条項が記載されていることによれば、2の条項も、前記(2)の付添看護費と同様に、被告が日額一万二、〇〇〇円の収入に副う税務署長ら作成の納税証明書等の提出を停止条件として原告らの債務が確定的に発生し、それまでの暫定的な仮払を定めたものであることが認められ(前掲乙第二号証をもつてしても右認定を覆すことができず、ほかにこれを左右するに足る証拠はない。)、被告が右証明書等を原告らに提出したとの証拠はないので、原告らの約定の債務は発生していないといえる。のみならず、原告(一部)および被告大野各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば原告は本件事故当時弟や母と一緒に肩書住所地で店舗を構えて寝具を主とした繊維製品の卸小売業を営業していたが、その経営ははかばかしいものではなく、店も昭和五〇年九月からは閉鎖して廃業し、かたわら同年三月下旬ころ開店した妻が大阪市内で経営する喫茶店に夕刻からバーテンとして勤務していたが事故当時まだ開店早々でその収入もはつきり確定していなかつたことが認められ(原告の供述のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に対比してたやすく措信することができない。)ので、はたして日額一万二、〇〇〇円の収入があつたかどうかはきわめて疑問である。したがつて、被告の休業補償費は賃金センサスによるほかはなく、成立に争いがない甲第二号証によれば被告は昭和一六年五月二五日生まれであるから、事故当時三三歳であるので、同統計の昭和五〇年産業計、男子労働者学歴計の三〇~三四歳によつて、被告の年収を二四四万三、九〇〇円と推定し、これを三六五で除して日給に換算し、被告の休業期間を事故日の昭和五〇年四月四日から最後の通院日である同年一二月二五日までの二六六日間とみて、休業損害を算定すると一七八万一、〇三四円となるので被告は同額の損害を被つたといえる。したがつて前記二一六万円から一七八万一、〇三四円を控除した三七万八、九六六円は同費用の支払としては過払となつている。

(4) 慰藉料

本件事故の態様、被告の受傷、その治療経過その他諸般の事情に照らすと、右事故により被つた同人の精神的苦痛に対する慰藉料は八〇万円と認めるのが相当である。

(5) 被告車の修理費用

成立に争いがない甲第九、一〇号証によれば被告車の破損修理に二二万五、〇〇〇円を要したことが認められ、原告らが被告に対し同額の支払をしたことは当事者間に争いがない。

3 してみると、被告の損害費目のうち末払のものは前項の(1)の治療費のうち一五万四、九九〇円および(4)の慰藉料八〇万円合計九五万四、九九〇円であり、過払は(2)の付添看護費二九万五、〇〇〇円、(3)の休業補償費のうち三七万八、九六六円合計六七万三、九六六円であるので、これを未払費目の弁済に充当すると結局被告の弁護士費用を除く残損害額は二八万一、〇二四円となる。

(反訴について)

三 以上、本訴請求について判断したとおり、被告の弁護士費用を除く残損害額は二八万一、〇二四円であり、原告大野本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、原告神田は原告会社の代表取締役であり、原告大野は同会社の監査役であるが、実体は業務執行も担当し、本件事故につき原告神田に指示されて示談交渉等の事後処理に携つたものであることが認められ、前記二の(二)の1の示談文言および署名押印よりすれば、原告神田および同大野は被告の代理人具順玉と昭和五〇年五月二三日被告に対する原告会社の損害賠償債務について連帯保証ないし分別の利益を放棄した保証(保証連帯)契約をしたことが認められるので、原告神田および同大野は被告に対し、右契約上の債務を負担せざるを得ないというべきである。

そして、本件反訴の事案、訴訟経過、難易度、認容額等を勘案すると、反訴についての弁護士費用は三万円が相当と認められるので原告らは各自被告に対し本件事故に基づく損害賠償金残額合計三一万一、〇二四円およびこれに対する記録上明らかな被告代理人が原告ら代理人に対し反訴状を交付した日の翌日である昭和五一年五月一一日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

(結論)

四 よつて、原告らの本訴請求のうち、原告らが各自被告に対し、本件事故につき、残損害額金三一万一、〇二四円およびこれに対する昭和五一年五月一一日から完済まで年五分の割合による遅延損害金を超える賠償債務を負担しないことの確認を求める部分は正当であるので右の限度でこれを認容するが、その余の部分は理由がないので棄却し、被告の反訴請求のうち原告らに対し各自右金三一万一、〇二四円およびこれに対する同日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを正当として認容し、その余の請求を失当として棄却し、訴訟費用および仮執行の宣言につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項、一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 片岡安夫)

別紙

一 発生日時 昭和五〇年四月四日午前一〇時ころ

二 発生場所 大阪市南区難波新地六番町一二番地先路上

三 加害者 訴外寺尾満

四 加害車両 普通貨物自動車(大阪四四さ二七八〇号)

五 被害者 被告

六 被害車両 普通乗用自動車(泉五五や二〇三〇号)

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